第一条 この条例は、農林水産業の振興に関し、基本理念を定め、県の責務並びに農林漁業者等及び県民の役割を明らかにするとともに、農林水産業の振興に関し必要な事項を定めることにより、農林水産業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって本県における農林水産業の持続的発展及び県民の豊かな生活の向上に寄与することを目的とする。
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 農林水産業及び農山村の有する多面的機能 県土の保全、水源の
涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農林水産業及び農山村の有する農林水産物の供給の機能以外の多面にわたる機能をいう。
二 地産地消 県産の農林水産物を県内で消費し、及び利用することをいう。
三 バリューチェーン 生産から販売に至るまでのそれぞれの工程において価値を加えながら消費者へつなげていく価値の連鎖をいう。
四 埼玉ブランド 全国的に評価の高い県産の農林水産物等の銘柄をいう。
五 都市農業 都市及びその近郊の農地及び平地林を活用した農業をいう。
第三条 農林水産業の振興は、次に掲げる事項を基本として行われなければならない。
一 農林漁業者の優れた経営能力を生かし、農林水産業の産業としての競争力を強化すること。
二 地域の特性に応じて、収益性の高い、安定的な農林漁業経営を確立し、将来にわたり農林水産業を持続的に営むことができるようにすること。
三 農林水産業及び農山村の有する多面的機能を適切かつ十分に発揮することができるようにすること。
四 消費者の需要に応じ、消費者に信頼される良質かつ安全な農林水産物を安定的に供給することができるようにすること。
第四条 県は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、農林水産業に関する施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。
2 県は、施策の推進に当たっては、地域の特性に配慮しながら、地域の農林漁業者及び国、市町村、農林漁業団体等と連携協力を図るものとする。
第五条 農林漁業者及び農林漁業団体は、農林水産業の振興を図るため、農林水産業以外の多様な事業者等との連携に努めるとともに、良質かつ安全な農林水産物の安定的な供給を担う主体であることを深く認識し、基本理念の実現に自ら積極的に取り組むものとする。
2 食品産業その他の関連産業の事業者及び団体は、その事業活動等を行うに当たり、県産の農林水産物の利用の促進及び付加価値の創出に努めるとともに、基本理念の実現に取り組むものとする。
第六条 県民は、自らの暮らしを通じて農林水産業の重要性を深く認識し、地産地消等に努めるとともに、農林漁業の体験その他の都市と農山村との地域間交流等を通じて、農林水産業及び農山村の有する多面的機能についての理解と関心を深めるものとする。
第七条 知事は、農林水産業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、基本理念にのっとり、農林水産業の振興に関する基本的な計画(以下「基本計画」という。)を定めるものとする。
2 知事は、基本計画を定めたときは、速やかにこれを公表するものとする。
3 前項の規定は、基本計画の変更について準用する。
4 知事は、毎年、基本計画に定められた農林水産業の振興に関する施策の実施状況を議会に報告するものとする。
(良質かつ安全な農林水産物の安定供給等に関する施策)
第八条 県は、良質かつ安全な農林水産物の安定的な供給を図るとともに、消費者の信頼の確保を図るため、生産、流通、販売等の各段階における安全管理の取組の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。
第九条 県は、農林水産業の担い手を育成し、及び確保するため、次に掲げる施策を講ずるものとする。
一 経営意欲のある農林漁業者がその経営基盤を強化するために必要な生産基盤の充実、経営の多角化、家族農業経営の活性化、地域の実態に即した組織化及び法人化、創意工夫を生かして取り組む新たな事業化等に対する支援に関する施策
二 新たに就業等をしようとする者(農林漁業経営に係る後継者となる予定の者を含む。)に係る農林水産業の技術及び経営方法の習得の促進、就業等をする際における投資に対する支援、農業大学校及び農業に関する学科を有する高等学校における就業等に関する情報の提供その他の新規の就業等に対する支援に関する施策
三 農林漁業経営における女性の役割が適正に評価される環境及び女性が農林漁業経営に関連する活動においてその意欲と能力を充分発揮できる環境の整備に関する施策
四 高齢の農林漁業者がその有する経験、技術及び能力を生かし、生きがいを持って地域で活躍できる環境の整備に関する施策
五 農林漁業者の組織等が行う農作業及び森林施業の共同化等に対する支援に関する施策
第十条 県は、農業生産に必要な優良農地の確保及び農地の有効利用を図るため、地域の特性に応じ、農地の利用の集積、農地の効率的な利用の促進、遊休農地の解消及び活用等のために必要な施策を講ずるものとする。
第十一条 県は、地域の特性に応じ、環境との調和に配慮しつつ、農地の区画の拡大、農業水利施設、農業用道路等の整備その他の農業生産の基盤の整備に必要な施策を計画的に講ずるものとする。
2 前項の施策の実施に当たっては、特に、ため池その他の農業水利施設の老朽化及び自然災害による被害等を未然に防止する観点から、農業水利施設の戦略的な保全管理及び機能の強化を重点的、効率的かつ計画的に推進するものとする。
3 県は、県産の木材を安定的に供給することができる体制を構築するため、森林における林道等の路網の整備その他の林業生産の基盤の整備に必要な施策を計画的に講ずるものとする。
4 前項の施策の実施に当たっては、特に、水源の
涵養、山地災害の防止その他の森林の有する多面にわたる機能を維持増進させる観点から、林道の整備及び治山事業を重点的、効率的かつ計画的に推進するものとする。
第十二条 県は、地域の特性を生かした農林水産物の生産、流通、販売等の体制の整備を図るため、次に掲げる施策を講ずるものとする。
一 国内外の需要に応じた収益性の高い農林水産物に係る情報の的確な把握及び当該情報を生かした生産の拡大の支援に関する施策
二 バリューチェーンの構築その他の付加価値の向上並びに埼玉ブランドの育成及び確立に関する施策
三 多様な販路の拡大及び確保、流通の合理化及び効率化の支援、農林漁業者と食品産業その他の関連産業の事業者及び消費者との仲介等に関する施策
四 加工品の原料又は材料となる農林水産物を需要に応じて安定的に生産し、及び供給することができる体制の確立に関する施策
五 農林漁業者と食品産業その他の商工業、観光産業、医療及び福祉等に係る多様な事業者との連携に対する支援に関する施策
第十三条 県は、農林水産業に係る新品種の研究開発、家畜の改良増殖、農林水産業に係る生産性の向上に資する技術の開発等に係る試験研究の推進のために必要な施策を講ずるものとする。
2 前項の試験研究の推進に当たっては、特に、農林水産業の産業としての競争力の強化を図る観点から、消費者等の需要及び地域の課題を踏まえ、戦略的に取り組むものとする。
3 県は、第一項の試験研究の成果の迅速な普及等を推進するものとする。
第十四条 県は、農林水産業に係る経営及び作業の効率化並びに生産性の向上を図るため、先端的な情報通信技術等の活用の促進のために必要な施策を講ずるものとする。
第十五条 県は、農林水産業の持続的かつ安定的な発展を図るため、鳥獣及び特定外来生物による農林水産業に係る被害の防止のために必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、農林水産物の生産の安全及び助長を図るため、家畜及び養殖水産動植物の伝染性疾病並びに農林水産物及び森林に係る病害虫の発生の予防及びまん延の防止のために必要な施策を講ずるものとする。
第十六条 県は、県民の豊かな食生活の実現、生産者と消費者との結び付きの強化及び地域の活性化を図るため、地産地消の促進のために必要な施策を講ずるものとする。
2 県は、その設置する公共施設及びその主催する行事等における地産地消の推進に率先して取り組むものとする。
3 県は、市町村が実施する公共施設における県産の木材の利用、学校給食における県産の農林水産物の利用等の地産地消の取組を支援するため、情報の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
第十七条 県は、農林水産業及び農山村の有する多面的機能が十分に発揮される魅力ある農山村の振興を図るため、農山村における生産基盤及び生活環境の整備の推進その他の必要な施策を講ずるものとする。
(県民の農林水産業及び農山村に対する理解の促進等に関する施策)
第十八条 県は、県民の農林水産業及び農山村に対する理解と関心を深めるため、都市と農山村との地域間交流の促進、県民に対する農林水産業に関する情報の提供の推進及び学習の機会の増大その他の必要な施策を講ずるものとする。
第十九条 県は、都市農業が都市住民に新鮮な農産物を供給するのみならず、安らぎと潤いをもたらすなど多様な機能を果たすものであることに鑑み、将来にわたる農地及び平地林の適正な維持及び保全を図るとともに、都市農業の振興を図るため、次に掲げる施策を講ずるものとする。
二 都市農業に関する知識の普及及び啓発に関する施策
三 都市農業の有する防災、良好な景観の形成並びに県土及び環境の保全等の機能の発揮に関する施策
第二十条 県は、農林水産業の持続的発展を図るため、意欲のある農林水産業の担い手の育成及び確保、農地の確保及び集積、農林水産物の生産及び販売等に関し、農林漁業者団体、消費者団体その他の関係団体との連携の強化その他の必要な施策を講ずるものとする。
第二十一条 県は、農林漁業者を支援する体制の整備を図るため、農林水産業の振興のために必要な試験研究の推進、その成果の普及等を行う職員の育成及び確保(当該職員の職に係る専門的な知識及び技能の継承を含む。)並びに適正な配置に努めるものとする。
第二十二条 県は、農林水産業の振興に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
2 県は、前項の財政上の措置を講ずるに当たっては、農林水産業の持続的な発展のためには、その基礎となる生産基盤の整備及び試験研究の推進が必要不可欠であることに鑑み、それらに関係する事業に要する経費について、特別の配慮をするものとする。
2 この条例の施行の際、現に策定されている埼玉農林業・農山村振興ビジョンは、第七条第一項の規定により策定された基本計画とみなす。
3 県は、社会状況の変化等を踏まえ、必要に応じこの条例について見直しを行うものとする。