第4章 防災対策の計画的な推進等(第46条―第49条)
平成16年に県内に甚大な被害をもたらした台風災害を受け、本県でも防災対策が重要であることが改めて認識された。また、近い将来発生すると予測されている南海トラフ地震に備えるためにも、より一層の防災対策の充実が必要である。
これまでの防災対策は、災害対策基本法及び同法に基づく地域防災計画等により、県、市町等公的な機関が行う災害への対応を中心に実施されてきた。
しかし、これまでの災害の状況に鑑み、被害を軽減するためには、公的な機関が行う防災対策のみならず、県民が自ら行う防災対策が重要であると改めて認識した。
県民が自らの身は自らで守る「自助」、地域の安全は地域住民が互いに助け合って守る「共助」及び行政による「公助」という理念の下、県民、市町及び県が、協働して防災対策を行うことで、被害を最小限度にとどめることができる。
こうした考えを県民、市町及び県が共有し、災害に強い人づくりと県土づくりを行うため、ここに、私たちは、この条例を制定する。
第1条 この条例は、防災対策の基本理念を定めるとともに、県民、市町及び県の責務等を明らかにすることにより、防災対策を総合的かつ計画的に推進し、もって災害に強い県づくりに寄与することを目的とする。
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 災害 地震、津波、洪水、高潮、土石流その他の自然現象により生ずる被害をいう。
(2) 防災対策 災害を未然に防止し、及び災害が発生した場合における被害の拡大を防ぐために行う対策をいう。
第3条 防災対策は、県民が自らの身は自らで守る自助を原則とし、自助を前提に地域の安全を地域住民が互いに助け合って守る共助に努め、市町及び県が公助を行うことを基本とし、県民、市町及び県が、それぞれの役割を果たし、協働して行わなければならない。
第4条 県民は、基本理念にのっとり、自ら防災対策を行うとともに、地域において相互に連携して防災対策を行うよう努めるものとする。
第5条 市町は、基本理念にのっとり、基礎的な地方公共団体として、災害から住民の生命、身体及び財産を守るため、県及び関係機関と連携し、災害に的確かつ迅速に対応することができる地域づくりに努めるものとする。
第6条 県は、基本理念にのっとり、災害から県民の生命、身体及び財産を守るため、市町を支援するとともに、市町及び関係機関と連携し、災害に強い県土づくり及びネットワークづくりに努めるものとする。
2 県は、地域防災計画をこの条例に規定する施策に沿って定めるものとする。
第7条 県民は、防災訓練及び研修に積極的に参加するなどして、災害の発生原因となる自然現象(以下「災害発生現象」という。)の種類ごとの特徴、予測される被害、災害発生に対する備え及び災害発生現象に遭遇した場合にとるべき行動に関する知識の習得に努めるものとする。
2 県民は、自らが生活する地域について、地形、地質、過去の災害記録、予測される被害その他の災害に関する情報(以下「地形等災害情報」という。)を収集するよう努めるものとする。
3 県民は、災害発生現象の態様に応じた避難場所(指定緊急避難場所(
法第49条の4第1項に規定する指定緊急避難場所をいう。)、指定避難所(
法第49条の7第1項に規定する指定避難所をいう。以下同じ。)その他の避難場所をいう。以下同じ。)、避難の経路及び方法、家族との連絡方法等をあらかじめ家族等で確認しておくよう努めるものとする。
第8条 不動産を譲渡し、交換し、又は貸し付けようとする者は、その相手方に対して、あらかじめ当該不動産についての地形等災害情報を提供するよう努めるものとする。
第9条 建築物の所有者は、当該建築物について必要な耐震診断を行うとともに、その結果に応じて改修等を行うよう努めるものとする。
2 県民は、家具、窓ガラス等について、転倒、落下等による被害の発生を防ぐための対策を行うよう努めるものとする。
3 ブロック塀、広告板その他の工作物又は自動販売機(以下「工作物等」という。)を設置する者は、当該工作物等の強度等を定期的に点検し、必要に応じて補強、撤去等を行うよう努めるものとする。
第10条 県民は、災害を未然に防止し、又は災害が発生した場合における被害の拡大を防ぐため、消火器その他の必要な用具を備えるよう努めるものとする。
第11条 県民は、災害発生に備えて、食料、飲料水、医薬品その他の生活物資を備蓄し、及びラジオ等の情報収集の手段を用意しておくよう努めるとともに、避難の際に必要な物資を持ち出すことができるように準備しておくよう努めるものとする。
第12条 高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの(以下「避難行動要支援者」という。)は、市町、住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織(以下「自主防災組織」という。)等に、あらかじめ避難の際に必要な自らの情報を提供するよう努めるものとする。
第13条 県民は、地域における防災対策を円滑に行うため、自主防災組織を結成し、及びその活動に積極的に参加するよう努めるものとする。
第14条 自主防災組織は、第25条第1項、第2項又は第4項の規定により市町又は県が提供する情報等を活用して、あらかじめ災害が発生する危険性が高い場所及びその場所の危険度を確認するよう努めるものとする。
2 自主防災組織は、あらかじめ、災害発生現象の態様に応じた避難場所、避難の経路及び方法等を確認するよう努めるものとする。
3 自主防災組織は、前2項の規定により確認した情報その他防災に関する情報を示した地図を作成し、及び周知するよう努めるものとする。
第15条 自主防災組織は、あらかじめ、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における地域の避難行動要支援者の避難誘導、避難支援等を、市町及び関係機関と連携して行うための体制を整備するよう努めるものとする。
第16条 自主防災組織は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に地域住民がとるべき行動について、災害発生時、避難途中、避難場所等における行動基準を作成し、及び周知するよう努めるものとする。
第17条 自主防災組織は、地域住民の防災意識の啓発及び高揚並びに地域防災力の向上を図るため、研修等を行うよう努めるものとする。
第18条 自主防災組織は、災害発生に備えて、地域の実情に応じて必要となる資機材及び物資を備蓄しておくよう努めるものとする。
第19条 自主防災組織は、市町が行う高齢者等避難、避難指示及び緊急安全確保(以下「避難情報」という。)の発表等の基準、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合の市町との役割分担等について、あらかじめ市町と協議し、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、地域に密着した防災対策が円滑かつ効果的に実施されるよう努めるものとする。
2 自主防災組織は、防災対策に取り組むに当たっては、市町、事業者、公共的団体その他関係団体と連携するよう努めるものとする。
第20条 事業者は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、来客者、従業員等の安全を確保し、及び業務を継続するため、あらかじめ、防災対策の責任者及び災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に従業員がとるべき行動等を定めるとともに、従業員に対して研修等を行うよう努めるものとする。
第21条 事業者は、その所有し、又は管理する施設を避難場所として使用することその他の防災対策について、地域住民及び自主防災組織に積極的に協力するよう努めるものとする。
第22条 事業者は、市町及び県が実施する防災対策の推進に協力するよう努めるものとする。
第23条 小学校、中学校、幼稚園又は保育所を設置し、又は管理する者は、児童、生徒又は幼児が、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において自らの安全を確保することができるように、災害及び防災に関する教育の実施に努めるものとする。
第24条 市町は、住民の防災対策の実施を促すため、自主防災組織及び関係機関と連携し、防災意識の啓発及び高揚並びに災害及び防災に関する知識の普及を図るものとする。
2 県は、前項の規定による施策の実施を支援するものとする。
第25条 市町は、地形等災害情報を住民に提供するものとする。
2 市町は、災害予測を示した地図を作成し、及び住民に周知するものとする。
3 県は、前2項の規定による施策の実施を支援するものとする。
4 市町及び県は、災害状況を記録し、及び公表するものとする。
第26条 市町は、自主防災組織の結成及び活動に対し、必要な支援を行うものとする。この場合において、市町は、自主防災組織の結成を目指している者及び自主防災組織の中心となって活動している者に対する支援について、特に配慮するものとする。
2 県は、前項の規定による施策の実施を支援するものとする。
第27条 市町は、あらかじめ、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における当該災害及び避難に関する情報の住民への提供並びに住民からの災害状況、住民の安否その他の情報の入手の手段を講じておくものとする。
2 市町は、あらかじめ、災害発生現象のために帰宅することが困難となり、又は移動の途中で目的地に到達することが困難となった者が帰宅し、到達し、又は避難するために必要な情報を提供するための体制を整備するものとする。
3 県は、あらかじめ、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における気象、被害その他の災害に関する情報の入手の手段を講じておくものとする。
4 県は、あらかじめ、前項に規定する情報を市町及び関係機関に提供するための手段を講じておくものとする。
5 市町及び県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における情報の提供について、あらかじめ報道機関と連携を図るものとする。
第28条 市町は、あらかじめ、自主防災組織と連携して、災害発生現象の態様及び地域の特性に応じた避難計画を作成するものとする。
2 前項に規定する避難計画には、市町が行う避難情報の発表等の基準、避難場所その他避難のために必要な事項を定めるものとする。
3 市町は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合における指定避難所の運営について、あらかじめ、指定避難所の所有者又は管理者及び自主防災組織と連携して、衛生、プライバシー保護その他の生活環境に配慮した行動基準を作成するものとする。
4 市町は、自主防災組織及び関係機関と連携して、第1項に規定する避難計画及び前項に規定する行動基準を住民に周知するものとする。
5 市町は、あらかじめ、避難行動要支援者の把握及び個別避難計画(
法第49条の14第1項に規定する個別避難計画をいう。)の作成に努め、自主防災組織及び関係機関と連携して、避難行動要支援者の支援を行うための体制を整備するものとする。
第29条 市町及び県は、災害発生に備えて、避難者のために必要な物資を備蓄しておくものとする。
第30条 市町は、防災体制の整備、消防団の拡充その他の地域防災力の強化を図るものとする。
第31条 市町は、あらかじめ、医療救護計画を作成し、災害による傷病者への治療の拠点となる病院等(以下「救護病院等」という。)を指定するなど災害が発生した場合における医療救護体制を整備するものとする。
2 県は、前項に規定する医療救護体制を支援するため、あらかじめ、救護病院等のみでは対応することができない傷病者に備えた広域救護病院の指定、医薬品、医療器具等を確保するための体制の整備等広域医療救護体制を整備するものとする。
第32条 県は、あらかじめ、市町と連携して、災害が発生した場合に感染症の発生の予防及びまん延の防止その他の公衆衛生を確保するための体制を整備するものとする。
第33条 県は、あらかじめ、緊急輸送路を指定し、及び周知するとともに、関係事業者等との間に協力に関する協定を締結するなど災害が発生した場合における備蓄物資等の輸送体制を整備するものとする。
第34条 市町は、あらかじめ、他の市町、関係事業者等との間に応援等に関する協定を締結するなど災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に連携して活動するための体制を整備するものとする。
2 県は、あらかじめ、自衛隊、他の都道府県、関係事業者等との間に広域的な連携に関する協定を締結するなど災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に迅速に被災地又は被災するおそれがある地域への支援を行うための体制を整備するものとする。
第35条 市町は、災害が発生した場合にボランティアによる防災活動(以下「ボランティア活動」という。)に必要な場所、情報等の提供を行うことができるよう、あらかじめ対策を講じておくものとする。
2 市町及び県は、ボランティア活動を目的としている団体と、平常時から連携を図るものとする。
3 市町及び県は、ボランティア活動への参加について啓発を行うとともに、ボランティア活動への参加方法、ボランティア活動時の注意事項等ボランティア活動を行うために必要な知識の普及を図るものとする。
第36条 市町及び県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に避難場所等として使用されるその所有し、又は管理する施設について、計画的な耐震化及び非常電源設備等の整備を行うものとする。
2 市町及び県は、道路、公園、河川、港湾等の施設について、防災上の観点から、定期的な点検を行うとともに、計画的に整備するものとする。
第37条 市町及び県は、その職員に対し研修等を行い、当該職員の災害及び防災に関する知識の習得並びに防災意識の高揚を図るものとする。
2 市町及び県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に的確かつ迅速に対応することができるよう、あらかじめ、危機管理体制を整備するとともに、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合の行動等についてその職員に周知するものとする。
第38条 県民は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、自ら当該災害に関する情報の収集に努め、必要と判断したときは自主的に避難するほか、市町が避難情報を発したときは速やかにこれに応じて行動するものとする。
2 指定避難所に滞在する者は、第28条第3項に規定する行動基準に従うものとする。
3 指定避難所の管理者等は、第28条第3項に規定する行動基準に従い、市町及び自主防災組織と連携して指定避難所を運営するものとする。
第39条 県民は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、
法、
道路交通法(昭和35年法律第105号)その他の法令の規定に基づき公安委員会又は警察官が行う車両の通行の禁止その他の道路における交通の規制を遵守するほか、当該交通の規制が行われていない道路においても車両の使用を自粛することにより、緊急通行車両の円滑な通行の確保等に協力するよう努めるものとする。
第40条 県民は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、倒壊、附属物の落下等の危険がある建築物又は工作物(以下「危険建築物等」という。)による被害の発生又は拡大を防ぐため、速やかに危険建築物等から避難し、又は危険建築物等に近づかないものとする。
2 前項に規定する場合において、危険建築物等の所有者又は管理者は、必要に応じて当該危険建築物等が危険である旨の表示を行うよう努めるものとする。
第41条 自主防災組織は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合は、地域において、情報の収集及び提供、救助、避難誘導等を積極的に行うよう努めるものとする。
第42条 事業者は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、来客者、従業員等の安全を確保するとともに、地域住民及び自主防災組織と連携して情報の収集及び提供、救助、避難誘導等を積極的に行うこと等により地域住民の安全を確保し、地域の被害を最小限度にとどめるよう努めるものとする。
第43条 市町及び県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、的確かつ迅速な避難、救助、医療等の応急対策が講じられるよう必要な応急体制を速やかに確立するものとする。
第44条 市町及び県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、災害状況、住民の安否その他の災害発生に関する情報を的確かつ迅速に収集するものとする。
2 市町及び県は、それぞれ、収集した災害発生に関する情報をあらかじめ定める部局において、集中して管理するものとする。
3 市町は、住民の安全かつ迅速な避難を促すため、第27条第1項に規定する情報の提供の手段を活用して災害予測等の情報を提供するものとする。
4 市町は、収集した災害発生に関する情報を速やかに県に報告するものとする。
5 県は、収集した災害発生に関する情報を速やかに市町に提供するものとする。
第45条 県は、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、市町から応急対策の実施について応援を求められたときは、第34条第2項に規定する広域的な連携に関する協定を活用する等により、速やかにその求めに応ずるものとする。
第46条 県は、保有施設の耐震化その他の防災対策の数値目標を定め、及び公表するものとする。
2 県は、防災対策の実施状況を定期的に点検することによって取り組むべき課題を明らかにし、その結果を公表するとともに、地域防災計画の見直しに当たっては、当該課題に配慮するものとする。
3 県は、市町の防災対策の実施状況について定期的に報告を求め、及びその内容を公表するものとする。
第47条 県民、自主防災組織、事業者及び学校等(以下「県民等」という。)は、自らの防災対策を定期的に点検するよう努めるものとする。
第48条 県民等並びに市町及び県は、各々又は相互に連携して、災害に対応する能力を向上させるため、防災訓練を実施するよう努めるものとする。
第49条 県民の防災意識の高揚及び防災対策の一層の充実を図るため、県民防災週間を設ける。
2 県民防災週間は、この条例の施行の日(同日の属する年の翌年以後の年にあっては、同日に応当する日)を初日とする1週間とする。
3 県民防災週間においては、県民等は、自らの防災対策の一層の充実に努めるものとする。
4 県民防災週間においては、市町及び県は、県民の防災意識の高揚のための活動の一層の充実を図るものとする。